財産分与の考え方
財産分与とは「結婚生活において二人で協力して貯めた財産は、二人で分け合って別れましょう」というものです。考え方の基本となる点が2つ、あります。
1つ目は、「二人で協力して貯めた」財産を分け合うということです。反対から言うと、「二人で協力して貯めた」のではない財産は、分け合う対象ではありません。
2つ目は、分ける割合は基本的に5:5だということ。ただし、基本的に「はんぶんこ」となるのは、夫婦が協力した度合いが等しいと考えるのを原則とするためです。反対から考えると、協力した度合いに差があることがはっきりしている場合には、割合に差を付けても構わないことになります。そして、特に不動産については、協力の度合い=投入した金銭が夫婦間で異なっていることが多く、かつ、その差が資料等によって明確に判明する場合がよくあります。そのような場合、5:5で分けるのではなく、分配する割合を修正することもあります。
分けるのは「売った場合の価値」
財産分与で分けるのは、別居日または離婚日(基準日)時点の不動産の価値です。「価値」とは「時価」=「実際に売った場合の値段」のことです。
夫婦双方とも家を使用しない場合、家を売却をして、売却益を分け合えばよいです。他方、どちらかが引き続き家を使用したい場合、売却しませんから「実際に売った場合の値段」は判明しません。その場合、不動産の「価値」は推定し、「このくらいだよね」と双方で合意するしかありません。
推定するには、不動産業者にお願いして査定してもらい、査定金額を参考にする方法がよく用いられます。「価値を知りたいので査定をしてみてほしい」と伝えれば、査定してもらえます。実際に売却するわけではありませんから、内見等をして詳細な判断をしてもらう必要なく、机上の簡易査定で足ります。「〇円~〇円」という幅をもって査定額が出ますから、時間に余裕があれば2、3社で査定を取るとよいです。複数の査定が一致する金額が、妥当な金額と考えることができます。
なお、住宅ローンが残っている場合、売るときには残ローン額を銀行に返済しなければ売却できませんから、分け合う対象は、査定金額から基準日時点の残ローン額を差し引いた残額となります。
分ける割合の決め方
不動産の価値を分ける割合の決め方は、いろいろな方法があります。ここでは、分かりやすい方法を一つ、ご紹介します。
それは、夫婦それぞれが、これまで不動産に投じてきた資金の量に応じて割合を決める、という方法です。不動産に投じた資金には、月々のローンの返済、頭金、契約時の費用、その他の工事費用などがあると思います。
月々のローンを給料から返済してきた場合、給料は、どちらが働いて取得したかに関わらず夫婦双方が等しい割合で得たと考えますから、返済に投じた資金も等しいと考えます。例えば、給料でローンを800万円返済した場合、夫も妻も、400万円ずつ負担したと考えます。
頭金や契約時の費用、工事費用などは、購入時に一括で負担している場合が多いと思います。仮に、夫婦の貯蓄でそれらを負担したなら、投じた資金は等しいと考えます。300万円の頭金を入れた場合、夫婦の貯蓄を取り崩して支払ったなら、夫も妻も、150万円ずつ負担したと考えます。
もし、夫が結婚前から持っていた貯金を頭金にあてたなら、それは夫が全額負担したと考えます。また、妻の両親から援助を受けた場合は、妻が全額負担したと考えます。結婚前からの貯金や両親の援助は「二人で協力して貯めた」財産ではなく、分け合う対象ではありませんから「等しい割合で投じた」とは見ないのです。
具体例で考えてみる
4500万円の家を夫5:妻6で分ける場合
具体的に考えてみましょう。結婚後に新築した住宅があり、査定金額は4500万円、残ローン額は3400万円というパターンで考えてみます。購入時には頭金として550万円を入れました。300万円は夫婦の貯蓄を取り崩し、250万円は夫の両親が負担しました。外構工事に150万円かかっており、これは、妻が結婚前から継続していた定期預金を解約して支払いました。これまでに返済した住宅ローンは、合計で1500万円です。このうち300万円は、妻の両親がくれた資金で繰り上げ返済しました。残りの1200万円は、夫婦の給料から支払いました。
家の価値は1100万円
査定金額は4500万円、残ローン額は3400万円ですから、分けるべき家の「価値」は1100万円です。これをどの割合で分けるか、が問題です。
それぞれが投じた金額
頭金550万円のうち、300万円は夫婦の貯蓄でした。これは、夫が150万円、妻が150万円を負担したと考えます。250万円は夫の両親が負担しました。これは、夫が200万円を負担したと考えます。すると、頭金については夫が400万円、妻が150万円を負担したことになります。
外構工事費用150万円は、妻の結婚前からの定期預金で支払ったとのことです。結婚前からの定期預金は、財産分与の対象から外れる特有財産ですから、妻が150万円全額を負担したと考えます。
住宅ローンは1500万円を返済しました。1200万円は夫婦の給料で支払ったわけですから、夫が600万円、妻が600万円を負担したと考えます。300万円は、妻の両親がくれた資金とのことですから、妻が300万円を負担したと考えます。
夫は1000万円、妻は1200万円を投じている
整理します。夫は頭金400万円、住宅ローン600万円、合計1000万円をこれまで負担しました。妻は頭金150万円、外構工事費用150万円、住宅ローン900万円、合意慧1200万円を負担しました。そうすると、夫と妻がこれまで不動産に投じてきた資金の割合は、夫:妻=1000:1200=5:6となります。価値を分ける割合は、夫:妻=5:6です。
売却しても住み続けてもいい
売却してしまう場合
家にはもう誰も住まない、という場合は、実際に売却をして売却益を分配すればよいです。実際に家が4500万円で売れ、残ローン等を差し引いて1100万円の利益が出た場合は、夫:妻=5:6ですから夫が500万円、妻が600万円を取得します。
どちらかが住み続けることもできる
離婚を機に妻と子供は家を出、夫は引き続き家に住む、ということもあるでしょう。家の価値=売った場合の価値は、査定金額4500万円から残ローン額3400万円を差し引いた1100万円です。このうち600万円分は妻の権利のはずでした。ところが、夫が引き続き家に住むということは、夫が1100万円の価値全部を保持することになってしまいます。これを公平に処理するため、夫が引き続き家に住むのであれば、600万円を妻に支払うことになります。妻の600万円分の権利を買い取るという発想です。
逆の場合も同じです。妻と子供が引き続き家に住み、夫が家を出るのであれば、妻が夫に500万円を支払えば住み続けることが可能になります。
残った住宅ローンの問題
返済するのは住み続ける方
相手の権利の分を買い取って清算したあと、住宅ローンが残っている場合には、家に住み続ける方がローンの金額を負担していくべきことになります。
名義を変えられない場合の工夫
ただし、ローンの名義を変えられるかどうかは、別の問題です。夫の名義でローンを組んでいて、離婚後は妻が家に住むからローンを負担したいという場合でも、残ローン額について新たにローンを組める信用力が妻になければ、銀行は名義変更に応じてくれません。ただ、そのような場合でも妻が住み続けられないということではありません。ローンは夫名義のままにしておくしかなく、夫の口座から引き落とされ続けることになりますが、妻から月々のローン金額を夫の口座に送金して負担する、などといった工夫をすればよいのです。
名義を変えない場合のリスク
夫としては、ローンの名義が自分であっても、負担を妻がするのであれば、経済的なデメリットはないように思えます。支払いが滞った場合に家を失うことになるのも、妻の側です。ただ、支払いが滞って家が競売に出され、売却されたがローンが残った、というような状況が仮に生じてしまった場合に、残ったローンを支払う義務は、銀行との関係では夫の側になります。また、外形的には住宅ローンを負ったままになりますので、収入や金額の兼ね合いではローンを新たに組むことが難しいかもしれません。例えば、夫が再婚後に別の家を購入しようとしても、夫の名義でローンを組めないかもしれません。
ここまで、離婚に伴う不動産の持ち分を分けるためのポイントを当事務所の弁護士宗川雄己(京都弁護士会所属)が解説しました。
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